★刃物の話 その二

鋼(旧字体;釼)とは

鋼(ハガネ・コウ 古くは刃金と書く)とは 鉄を主成分とする合金を指し、鉄の持つ性能、性質(強度、 靭性、磁性、など)を人工的に高めた金属を言う。 一般で言う鉄(軟鉄~鋳鉄)の中で、炭素量0.3~2.0%、 ステンレスや耐熱鋼などでは全部がそれである。 また希少金属との合金で大幅な性質向上が見られている。

鋼の熱処理

金属の温度による状態変化を利用して、必要な性質を持つ 金属を得ることを、熱処理という。 主な熱処理として 焼ならし・焼なまし・焼入れ・焼きもどし などがある。

  • 焼ならし
    鋼の加工変形による内部応力の除去、組織の変化を元に 戻す為、加熱(オーステナイト状態に十分に保持)してから 空中冷却を行う作業。 強度,延性が高くなる, 焼入れの為の前処理。
  • 焼なまし‐焼鈍
    焼きならしと同様に加熱(オーステナイト状態に十分保持) してから炉中徐冷、内部ひずみを取り除き、組織を微細化 軟化し、展延性を向上させるための作業。
  • 焼入れ
    鋼を加熱(オーステナイト組織状態)してから水または油で 急冷することにより、マルテンサイト状態の硬い組織を
    得る作業。非常に硬くなるが、靭性は低下、後加工は 困難になる。焼き割れにも注意が必要である。 日本刀製作では、鋼を鍛える手段としても、用いられる。 
    • 浸炭焼入れ――表面に浸炭する()ことにより、主に耐摩耗性 向上の為に用いられる表面だけの熱処理。 
    • 表面焼入れ――高周波の電磁誘導により表面だけを加熱し 焼入れをする方法、焼入れ深さの調整ができ、 作業時間の短縮が可能である。
  • 焼もどし
    焼入れで硬くなった組織を、再加熱し徐冷することで、 組織を微細化し、歪を取り除く、靭性を増すための作業。 焼入れ後は必ずと言えるほど行います

ここでの、加熱温度、保持時間,冷却温度・速度などは わずかな違いで、鋼の性能は大きく変わる。 合金の性能を、最大限に発揮する為には、非常に重要な 作業といえよう。 温度計の無かった時代は、温度は鉄の色で確認していたが、 目を安定させる為に、暗い場所や太陽の無い時間を選んで 熱処理を行っていた、決して他人に見せないだけではない。 また焼入れ水も、湧き水や井戸水の、年中温度が一定な水を 使ったり、ある流派は冷却時間を遅らせる為であろう、一度も 変えたことの無い、不純物の多い水を使ったりしている。 また、わざと不純物を入れて、冷却速度の遅い水を作っている ようだ。このあたりは各流派、秘中の秘である為に、 どれが本当のことやら。・ 日本では水での焼入れだけであったが、油での焼入れや 現在ではいろいろな冷却材で冷却温度や速度に変化をつけたり 冷却途中で保持時間を設けたりして、様々な焼入れ方法が 考え出されている。 熱処理で変化するのは性能だけではない、内部ひずみが 大きくなることにより、寸法が変化する。 変化を考慮した寸法を決定したり、部分焼入れを駆使して 加工している、これは経験、勘でしか判断できないので このあたりが 現代の匠の技 なのかもしれない。
※蛇足 
刃(ヤイバ) 語源は、ヤキハ(焼入れをした刃)

合金とは

複数の金属または金属と非金属をを混ぜ合わせて作る金属を 合金という。これは、主たる金属の性質向上を目的とし 融点の低下、機械的強度の向上、耐食性の向上、磁性変化 外観の美化など用途に応じて様々である。 また希少金属との合金で大幅な性質向上が見られている。 代表的な合金を上げると、鋼(fe-C),黄銅(CuーZn),青銅(CuーSn) SUS(Fe-Ni-Cr),ジュラルミン(Al-Cu),ハンダ(Pb-Sn) 等々無限にある、装飾貴金属もほとんどが合金である。 近年、アルミニウム合金やマグネシウム合金など、母材 からは創造できない、性能を持つ合金の開発が進んでいる。 厳密に言うと、他金属が不純物として入り込んでいるので 我々が手にする金属は、すべて合金であると言っても、 過言ではない。不純物の入らない、純粋な単一金属を 製錬することのほうが、難しい金属が多い。 鋼は鉄と炭素(金属と非金属)の合金である。 鉄は、地球の金属では一番多くあり、扱い易く便利な金属で あるが錆易いという欠点がある、しかし熱処理という、 補強をすることで、夢の金属へと変身する。 また性質向上のために Ni,Mo,Mn,Cr,W,Vなど希少金属を 添加する方法も研究されてきた。 また、一般に錆びない金属の割合を増やしていくと錆び にくくなるが鉄本来の性質が薄れ、別の性質が現れてくる、 ステンレス鋼がまさにそれである、Fe,Ni,Crを合金にする ことで、錆びなくなるが(厳密には酸化している) 熱処理による性質変化は劣り(無くなり)、加工脆性が現れる。 当初の、ステンレス鋼(SUS)の刃物は、錆びないことを優先 させると熱処理、特に焼入れで硬くならず、NIやCrの粘さと 加工脆性でのゴマカシでありすぐ切れなくなった。 また、浸炭焼入れや衝撃焼入れなども表面だけの熱処理で あるために研磨(砥ぎ)により硬化部分は直ぐに無くなる。

  • 加工脆性(カコウゼイセイ)
    外力を加え変形させる(加工)と表面(外力の影響部)が硬く、 脆くなること、破壊に要するエネルギーが小さくなること。
  • 低温脆性(テイオンゼイセイ)
    金属が、低温下で脆くなる現象を言う。 第二次大戦中、大量に作られた、溶接船が、寒冷期の北洋で 真っ二つに切れて沈没する事故を、分析して分かった。
  • 靭性(ジンセイ)⇔脆性 
    ねばさ

―念のために―

我々がよく目にする、鉄の錆びや銅の錆びである緑青は、 化学変化で生成される化合物であり、合金とは異なる。 また砂糖水は水と砂糖の混合物で、塩水は水の中に ナトリュウムイオンと塩素イオンが電離した化合物である。

※蛇足――本当の鉄の性質
近年、精錬技術が大幅に進歩して、99.9999%という 気の遠くなる程の、超高純度の鉄が作り出された、 その性質が、今までの鉄の常識を大きく変えるものであった。 錆びず、ほとんどの酸に溶けず。-270°Cでも低温脆性が現れず 金属と思えないほど良く伸びる、等々、今まで知り得た鉄の 常識を大幅に覆す、発見が続いている。 不純物が少ないから 無視できると勝手に決め付けてきたのかもしれない。 今後は、超高純度鉄の性質という、概念を持つ必要がある。 もしかすると第二の、鉄の時代到来なのかも・。

※蛇足――緑青(ロクショウ)の毒性
1980年頃までは、緑青は猛毒であるという伝説が まことしやかに信じられてきた。 無毒であると,厚生省から安全宣言が出されたと記憶している. 銅鉱石には、よく砒素が含まれており、昔の製錬技術では この猛毒の砒素を取り除けなかったので、砒素入りの銅製品が 出回った、それらで作った料理を口にしたので、砒素中毒 二なり死んでしまった。これが真相らしい。 また各地の銅像(青銅像)は、鳥の糞で見るも無惨に白く なっているのを良く見かけるが、金沢兼六園の日本武尊像は この糞害が少なく、あまり白くなっていない事を、発見した ある金属学の教授が学術的に調べた結果、他の銅像よりも 砒素が多いそうだ、鳥がそれを嫌がり、近づかないのでは 無いのかと発表された。 鳥は見ただけで判るのかな?・

※蛇足―ハンダ
合金の、低融点化物の代表と言えよう。 電気を通し、低温で溶け、外見もよく、安価である。 電気―電子産業で大量に使われてきたが、重金属(鉛)の 人体への有害性が叫ばれ、鉛を使わないPbフリーハンダに 代わりつつある。 共晶ハンダは Pb(融点327.5°C62%)とSn(融点232°C38%) の合金で融点183°Cになる。(合金の共晶効果)